長南洋一
cyoic****@maple*****
2012年 5月 17日 (木) 13:26:27 JST
長南です。 わたしとしては、翻訳の一番大変なところは、原文にぴったりの日本語を 考えることだと思っています。道具が鉛筆と原稿用紙から、ワープロに 変わって、推敲がずいぶん楽になりましたが、翻訳で一番肝腎な、日本語を 考えるということを、道具がやってくれるわけではありません。 ですから、po 化、もっと一般的に言えば、便利な道具というものについて、 辞書関係以外、わたしはほとんど関心がないのです。それでも、訳す側にとって 本当に便利かどうか、どういうプラス面とマイナス面があるのか、po を試す ぐらいのことはやってみてもよいと思いますけれど。 そんなわけで、以下は「配布物の絞り込み」の方に対する意見です。 マニュアルには、新しくなければ困るものと、かなり古くても、存在すれば それなりに役に立つものがあります。前者について、更新しやすい体制を 作るのは結構なことです。でも、後者を捨てるまでのこともないと思います。 役に立つ間はそのまま配布しておいて、更新なり新訳なりをしてくださる方が 現れたら、そのとき po 化なり何なりを考えたら、よいのではないでしょうか。 # わたしが訳したもので言うと、sudo は開発が活発で、新しい設定ファイルが # できたり、タイムスタンプ・ファイルの位置が変わったりしたので、 # マニュアルが新しくなければ、困るものでした。grep の方は事実上、 # カラー表示の説明が増えただけです。こちらは、翻訳が古いままでも # 十分用が足りたろうと思います。 わたしとしては、「役に立つ/立たない」のほかに、もうひとつ判断の 目安があります。 たとえば、バージョン番号が、1.2.3 などの場合、1 をメジャーバージョン、 2 をマイナーバージョン、3 をリビジョン番号 (あるいは、リリース番号) と 言うのですか。仮にそうだとして、マイナーバージョンがひとつやふたつ 古いぐらいのマニュアルなら、十分役に立つと考えてよいのではないかと 思います。もっとも、sudo のように、リビジョンの変更中に、新しい機能が 加わったりする例もありますけれど。 それでは、http://sourceforge.jp/projects/linuxjm/wiki/PackageStatus の 「配布中止候補」と「配布中止」を一つづつ取り上げます。 基本的に現在の英語版と翻訳の "DESCRIPTION" と "OPTIONS" を比較しただけ です。それから、英語版は debian squeeze 所収のものしか見ていませんから、 最新版では事情が違うかもしれません。 1) GNU ed(1): 残してよい。 "DESCRIPTION" は red の説明がある以外、ほとんど同じ。 オプションがすこし違う。 これは言わば原始時代のコマンドですから、マニュアルが古くて 使いものにならないということはないでしょう。 歴史的文書として残しておけばよいと思います。 ひょっとすると、シェルスクリプトの中からファイルを書き変えるために、 ed を使いたいという人がいるかもしれませんし。 2) GNU awk(1): 残してよい。 "DESCRIPTION" は pgawk の説明が増えているだけ。 オプションは -W dump-variables[=file] など、6 個ほど増えている。 たいていの場合、man は日本語版で用が足りると思います。 3) GNU gdbm(3): 残してよい。 少なくとも "SYNOPSIS" は英語版と日本語版で変わりなし。 4) GNU groff: 微妙。 これはマニュアルがたくさんあって、様々。 groff(1) について言うと、"DESCRIPTION" すら英語版と翻訳では 違っている。しかし、オプションは -D, -K, -c, -k が増えているだけ。 5) GNU make(1): 残してよい。 "DESCRIPTION" はほとんど同文。増加オプションは以下のとおり。 -B, --debug[=FLAGS], -L, -R, --no-print-directory, --warn-undefined-variables 6) GNU texinfo: 残してよい。 info.1: 英語版も日本語版もほとんど変わらない。 install-info.1: debian は独自。 makeinfo.1: 変換できるフォーマットが増えている。基本的にはそれだけ。 texi2dvi.1: これは原文にかなり変更がある。ただし、「info を読め」は 翻訳にもある。 texindex.1: 新版では以下のオプションが消えている。 -k (--keep), --no-keep info.5: まったく同一。事実上「info を読め」のみ。 texinfo.5: まったく同一。 全体として、詳しい説明は info を読むよりないのでしょうし、man なら 日本語版で用が足りると思います。 7) apmd: うちの squeeze には英語版がそもそも入っていないので、判断できない。 8) autofs: これも英語版が入っていないので、判断できない。 9) bind: 配布中止でよいかも。 dig.1 や host.1 もあり、そういうユーザ・コマンドの日本語 man は ほしい。しかし、現在の英語版と翻訳では、"DESCRIPTION" のみならず、 "SYNOPSIS" セクションさえかなり変わっている。もっとも、debian の場合、 dig や host は dnsutils パッケージなので、系統が違うのかもしれない。 メジャーバージョンさえ違うので、配布中止はあると思う。 10) fetchmail: 配布中止でよいかも。 "DESCRIPTION" がかなり変わっている。メジャーバージョンが違うし、 初心のユーザが fetchmail を使うことは、現在ではあまりないだろうから、 配布中止でもよいかもしれない。 11) lpr-linux: 複雑。 現在使われているのは BSD-lpr や LPRng ではなく、CUPS の lpr など だろうし、CPUS lpc のマニュアルには、"The CUPS version of lpc does not implement all of the standard Berkeley or LPRng commands." と書いてある。それを考えると、配布中止でよいのだが、せめて lpr、 lpq, lprm の日本語マニュアルぐらいはないと、初心ユーザが困るだろう。 そういったコマンドの基本的な使い方は今の翻訳でもわかるので、複雑な 気持ちになる。 12) modutils: 残してもよさそう。 debian squuze の場合、英語版のマニュアルは、module-init-tools パッケージのもの。insmod と modprobe のマニュアルを読んでみた ところでは、"DESCRIPTION" の内容にほとんど変わりはない。 13) netatalk: これは、わたしのまったく知らない世界なので、判断できません。 14) pciutils: 微妙。 lspci.8: "DESCRIPTION" の文章は増えているが、和訳でも必要なことは 言っている。ただし、オプションは 13 個増えている。 setpci.8: man ページの内容がかなり変わっている。 update-pciids.8: ほとんど変更なし。wget, lynx だけでなく、curl が 使えるようになっただけ。 メジャーバージョンが変わっている以上、当然配布中止候補なのですが、 マニュアルの内容は上記のような状態なので、中止すべきかどうかの 判断は微妙です。 15) rpm: これはディストリビューションに任せるべきでしょう。 16) sendmail: これもわたしには判断できない。 バージョンだけ見ると、翻訳がまだ役に立ちそうですが。 17) GNU cpio: 残してよい。 cpio の info の翻訳がない以上、これは残すべきでしょう。 と言うより、現在の英語版よりも、この日本語訳の方が役に立ちます。 "DESCRIPTION" の訳は、info の説明とほぼ同文ですし。 18) GNU gdb: 残してよい。 意外なことに、gdb.1 も gdbserver.1 もほとんど内容が変わっていません (squeeze では 7.0.1 ですが)。残しても問題ないのではないかと思います。 ほかのパッケージについては、次の機会に。 それから、「配布中止」の候補を考えるのも必要なことでしょうが、それ以上に、 未訳だけれど翻訳がほしいものや、改訂が望まれるものの候補を挙げた方が よいのではないかと思います。 -- 長南洋一